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1 2011年 04月 26日
ファンドが考える旅館経営
![]() ファンドからは、どれくらいの売上という目標を持たされて経営されているのですか。 ≪松下≫ どのくらいの売上ではなくて、どのくらいのGOPです。Gross Operating Profit(営業総利益)。資本に関する費用、例えば減価償却や家賃や税金、これはオーナーであるファンドの責任です。私はあくまで、営業して、自分の腕で稼いで、自分の腕で支出の責任まで持てる範囲、一般の会社で言えば「営業利益」になるかもしれませんが、その段階の額をいくらと。示されています。 ファンドは、ある意味、スタッフに言われて、設備に投資しようとか、非効率の改善というようなことをやられたということですが、このファンドにはかなり、旅館とか、そういったものが見れる方がいたということですね。コンサルが付いたとか。 ≪松下≫ 私どもが持っているファンドは、旅館を15~16軒持っているんですよ。ですから、旅館に対する見る目はあるんですね。 旅館経営のノウハウを持っていると。見る目があるわけですね。 ≪松下≫ 経営というか、旅館自体がビジネスになると思っているんでしょうね。 そうです。そういう感覚です。外資系のファンドじゃなくて国産ファンドですけどね。 社長がお見えになる前にそういう投資が行われたということは、旅館の運営とかそういうことに詳しくないとなかなか難しいことですね。それがどれだけはね返ってくるかとか、今まではどうだったということを把握していないといけないわけですね。 ≪松下≫ そうですね。 ただ、その後持ち始めたんですけど、私どもの旅館を持ったころはあまり持っていなかったようです。ですから、うちを参考例にしながら、やり方によってはきちんと配当が取れるんだなと。ファンドだって出資者からお金を集めているわけですからね。そこに一定率の配当をしていかなければならないわけですから、それはやっぱり旅館が儲からないとなれば投資しないでしょうからね。 そう考えると、ファンドの改善はかなり適切なものだったと。 ≪松下≫ 投資については適切でしたね。その後は、GOPを稼いでいる限りは、私に対して一言も言ってきません。 ところが、このリーマンショックで、ここまで下がって、今やっと打ち止めましたけど、底を打ったのが6月、7月ころで、そこまでずっと下がっていました。そのときは決められた額のGOPが取れませんでしたので、それは厳しくいわれました。 月の単位の目標もありますか。ファンドとしての要望はどのような事ですか。 ≪松下≫ あります。GOPを稼げ、ということです。 だから、いや、そんなことを言っても世の中の景気が悪いから収入が下がっていますよと言ったら、収入が下がってGOPを稼ぐにはどうしたらいいか、社長がよくご存じでしょうと。それは何かというと、人を切るか、料理の質を下げるか、清掃の手を抜いて人件費を安くするか、それしかないですよね。だけど、それは今、ものすごい勢いで私が阻止しています。 うちは、ネットにしても、お客様のアンケートにしても、ほとんど誉められている、また来たいというお客様がたくさんいらっしゃるわけです。昔は、そう言ったら、2~3カ月後にまた来たりするけど、今は景気が悪いから、そう言っても、来るのが半年後だったり、1年後で、それがなかなか結びついてこない。だけど、さっきの基本に戻りますけど、係が皆さん方に、良いサービスをして喜んでいただき、良い料理をお出しし、要するに、お支払いになった金額に価値があると認めていただいていれば、景気がよくなったときに真っ先に回復する旅館になりますからね。それまでは歯を食いしばってもがんばらなければならないと、ファンドをなだめすかしながら、もう少しがまんしろと言っているのが現状です。 これだけシェアを上げていながら、なぜそうなってくるかというと、どうしても、価格競争というものが出てくるわけです。うちは、湯河原のほかの旅館とは全く比較にならないくらい高い旅館ですから、どうしても、お客様が、今までは年に4回来ている方が2回くらいしか来なくなってしまうわけです。それは、ここの旅館はともかく、海石榴の主力は中小企業の社長さんです。大企業の社長さんは全く来ません。自分のポケットマネーで来るから。だけど、中小企業の社長さんというのは、儲かれば社員を連れてきたり、ご家族を連れてきたり、取引先を連れてきて、しかも芸者を上げて遊んでくれる。それは節税対策もありますからね。それで海石榴はぐっと売上が伸びていたわけです。ところが、今は、そのもとになる中小企業が、この1~2年、本当に不況ですから、ご自分でお金を持っていらっしゃるそういう方が、来る率が下がってきました。 ![]() 顧客の確保について、例えばネットとか旅行代理店とか、何か特別になさっていますか。 ≪松下≫ これは今年の方針ですけど、ほかの旅館に先駆けてネットの専門部署を立ち上げ、ネット客の取り込みを図る。これは既に今やっていることですけど、今まで、旅館のネットを扱っているというのは、予約が片手間で扱っていましたけど、それを、ネットだけいつも見ていて、きめ細かく、例えば明日空いていれば、すぐにネットに少し安いプライスで、いかがですかというプランを出すとか。それから、ほかの旅館のネット情報を見ながら、それを参考にして、うちも良い企画を出すとか。そういう、他の旅館に先駆けて専門にやる部門に今3名配置しています。これは、ほかの旅館ではたぶんやっていないと思います。それからもう一つは、今、ホームページを費用をかけて全面的にリニューアルしていこうとしています。ホームページというのは、お客さんは、ネットで予約するときは、ネットには専門の検索機関があって、「楽天トラベル」、「一休.com」、「じゃらん」「らくだ倶楽部」など、旅行に行く人はまずそこを検索します。そこを検索した後で何をするかというと、今度は、そこの会社独自のホームページを見るわけです。それで、これは確かにいいなと。それから、今度はネットの口コミサイトを見るといろいろな意見があるわけです。悪いとどんどん書き込まれて、それを消さないんです。ですから、サービスが大切だということです。知らない人にまでわかってしまいますから。 ホームページを全面的にリニューアルして、より魅力あるホームページを今つくっています。これは、年内に完成しますけど、それによって、魅力ある旅館にしようと。 ネット担当部門に3名配置して、今申し上げたように、現在のネット受注は全体収入の15%ですが、それを30%に引き上げようということが一つです。これが今年の当初から実行していることです。 2番目は、外国人の団体並びに中国富裕層顧客獲得に向けての諸施策を実施すると。英文のパンフレットもありますし、英文のホームページも作成してありますが、それに加えて中国語文を、大陸と、台湾や香港で使っている中国語、それのホームページを立ち上げて、パンフレットを作成して、あと、これはまだ進んでいませんが、あとは館内表示などを中国語も並記していこうと思っています。 中国のお客様に来ていただくことが、本当にここのプラスになるのかどうかということはいかがですか。 ≪松下≫ うちは一般のお客は入れません。 今まで、かなり増えましたけど、中国も富裕層だけです。あまり、そういう層で乱暴する方はいませんね。というのは、けた外れのお金を持っているんです。帝国ホテルに3泊して、帝国ホテルハイヤーを頼んでそのまま海石榴(つばき)に来て、そこまでまた3泊ぐらいしてくださって、それも迎賓館の最高の部屋に泊まられて、また帝国ホテルからわざわざハイヤーを呼んで戻るとか。信じられないようなお金持ちがおられるのです。 アラビアの石油王とか。彼らはみんな英語ですよね。 ≪松下≫ そうですね、たまに来ますけど、こちらから積極的にセールスしていません。 3番目の今年の方針は、営業マンを増強して、回復基調にある団体客の取り込みを図ることです。ここの旅館は、さっき申し上げたように、お部屋の数が結構多いですから、どうしても営業マンを置いて、それで団体需要を図らなければならない。団体需要というのも、職場旅行とかいうことよりも、インセンティブですけどね。例えば、何か建設業界の協力会社の会とか、メーカーの下請け会社の社長会とか、そういうものがあります。そういうところがよく使ってくださるので、そういうところに営業をかけていく。 もう一つは、中国のほか海外エージェントへの積極的なセールス。これは、先月、私が自ら台湾、中国、香港へ行ってきました。私は前のホテルマン時代から、京王プラザの台湾の提携ホテルに4年くらいいたことがありますので、そのルート。それから、京王プラザへ香港から個人客の良い客を送客してくれるエージェントに顔がありますので、そういうところを訪ねて、今、現実に何件か入ってきています。ですから、中国のお客様も、これからは富裕層のお客様を取り込んでいきたいと考えています。 中国の富裕層のお客さんであれば、中国語でなく、英語だけのほうが高級感があるかもしれませんが、いかがですか。 ≪松下≫ なるほどね。 もう一つ、今年の方針の中には、将来に備えて、海石榴に屋内露天風呂の新設、海石榴(つばき)には迎賓館がありますけど、迎賓館のリニューアルを計画しています。11月から着工しますが、海石榴の迎賓館の客室に、今までは露天風呂付きの客室がなかったので、部屋の一部をつぶして外に張り出して、露天風呂付きの客室にする。それから、ベッドルームを付けて、付加価値をあげて稼働率アップを図る。 それから、これは来年になりますけど、海石榴の露天風呂があまり大きくないので、新しく、山翠楼の露天風呂のような大きな露天風呂をつくろうと考えています。 やはり経営があまりかんばしくなくても設備投資はしていかないとダメということですね。 ≪松下≫ そうです。旅館は絶対にそうですよ。 これだけ顧客が増えると簡単に回収できるんです。損益分岐点を越したらほとんど利益に等しいですからね。 本当は、リーマンショックがなかったら、ここは完全に回復したんですが。あのリーマンショックは本当に響きました。良い施設で、良いサービスをしているにもかかわらずじりじりと落ちてきましたからね。ですから、もう一回てこ入れをして、上げようと思っています。 旅館の価値というのは、土地や建物の値段だけではなくて、サービスとか、持っている備品、そういうものまで見るということになる‥‥。それをどうやって見るのがいいんですかね。同じ広さのお庭の、同じ部屋数のホテルと比べても価値が全然違うということがあるじゃないですか。何が違うのか。それが結局、ファンドがつける値段でもあるわけですね。 ≪松下≫ アンケートをお願いして、お料理や、ここでしか得られない景色、あとはおもてなしなど、ほっと落ち着くというお声がありました。 おもてなしということは、社員さんたちの教育だったりするわけですね。そういうことが結局、旅館全体の価値を高めていくということですよね。ブランド力は大きいですね。 ≪松下≫ そうですね。 でも、それは旅館全部に裏打ちされているブランド力です。自然の中にあることもその要素だし、今言った、良いサービス、清潔な施設、そういうことが加味されてブランド力になるわけですよね。 ブランドというのは、逆に言うと非常に怖くて、ブランドだからと行ってみたら大したことがなかったと言われるほうが怖いところがありますね。 ≪松下≫ そうですね。一回評判を落とすと、サービス業は回復するのに5年、6年とかかりますから。上げるのはなかなか大変です。 私がホテルマンでしたから、みんなの教育のときによく話すんですけど、実は、私の年齢はもう70歳を過ぎていますけど、私がホテルマンになりたての時代、ちょうど東京オリンピックが終わった後、ホテルがそれまではあまりなくて、有名なホテルでは帝国ホテルしかなかった。そこに、ホテルオークラ、ニューオータニ、赤坂に東京ヒルトンホテル、この3つが同時にオープンしたんです。そのときに、オリンピックの後、ぐーっと不景気になって、国際ホテルに泊まるお客があまりいなくなったんです。 そのときに何をしたかというと、ホテルオークラは絶対に安いお客をとらなかったんです。今言ったように、良いサービスと良い施設を一生懸命に保って、お客様に一生懸命にサービスする。武士は食わねどで、何年かがまんしたんですね。ところが、Aホテルは、一番いい立地にあったんです。ところが、Aホテルの総支配人が何をしたかというと、売れないものだから、団体でも何でもとって、その場の売上を確保したわけです。そうすると、1~2年はそれで通用するんです。一流ホテルが安くしてくれるということで、団体とかどんどん来た。 ところが、評判がすっかり落ちて、あのホテルは、安いホテルで、しかも、利益を上げるために手を抜きますから、サービスもそこそこしかやってくれないということで、そのホテルは、外資ブランドの中で日本では非常に評判を落としてしまったわけです。あれを回復するには随分かかって、今は経営が全然変わって、やっと上がってきましたけど、それまではそのホテルは落ちっ放しでした。そのツケはすごく大きいものだったと思います。 旅館業、ホテル業というのは、ステータスとレピテーションの世界ですから、評価を落としたら絶対に回復しないですね。だからここでも評価を落とさないようにと。お客の声には常に耳を傾けろといっています。 こういう高級旅館にしては、山翠楼は部屋数が多いほうですよね。 ≪松下≫ おっしゃるとおりです。 でも、私は山翠楼を湯河原の中では一番いいですけど、高級旅館とは思っていません。そのクラスのホテルでは良い旅館だと言われるようにしていますけど、高級旅館ではないと思っています。なぜならば、57室ありますから、玉石混淆のお客様が入らないと経営的には難しい。 海石榴と山翠楼と名前も値段もコンセプトも違う旅館を経営しているのですね。 ![]() ![]() ≪松下≫ そうです。 本当は、そういうやり方がいいのかどうかはわからないんですけど、やむを得ずやっているという面もあります。それは、昔から、ここの会社がそういう経営をしていましたからね。 だから、海石榴で出す料理と、サービスに当たる人数も、向こうのほうが厚めに置いてます。例えば、ここであれば1人の係が2部屋を担当するけれども、向こうでは1部屋1人とかね。 海石榴のお客さんと山翠楼のお客さんが触れ合うというか、混ざるというか、そういうことは基本的にはないようにしてあるんですか。 ≪松下≫ それは別に意識していませんけど、お客様のほうでそういうふうになさっていらっしゃいます。 経営体は一つだけど、2つの旅館があるというイメージでやっているわけですね。 ≪松下≫ そうです。社長だけが一緒で、おかみも支配人も別にいますからね。 ただ、管理部門で、総務や経理は一体で置いています。 回復基調はどちらが強いですか。 ≪松下≫ 落ち込みのときに一番落ち込んだのは海石榴です。対前年比でガクンと落ちました。ここで止まっているのは、山翠楼が比較的良い方ではないかと思っています。ここは価格面が向こうに比べて比較的リーズナブルですので。 それだけ落ち込んだ海石榴が、この3カ月ほどずっと対前年を上回ってきましたから、やっといくらか回復してきたのかなと。 ということは、結局、海石榴が景気に左右されて、山翠楼がわりかしヒットを打つとかいう感じですか。 ≪松下≫ そういう言い方もできますね。向こうは部屋数が少なくて高級ですから。 さっき言った中小企業の社長さんなどは、自分のところの景気が悪くなると来ないですからね。 今、従業員数は、分けて言うと、何人と何人くらいですか。 ≪松下≫ 今、正社員が両方あわせて80人くらいです。パートとか、旅館独特のシステムで配膳会がありますけど、そういうものを入れると、正社員と両方あわせて約200人くらいです。 係などは、サービス内容が違いますから分けていますけど、お皿洗いとかお風呂場の係などは流動的にやっています。 とにかく、人の手がかかる商売です。本当に労働集約産業です。ですからなかなか大変ですよ。自分のお金だったら、私は旅館なんかやりませんね。(笑) 拘束時間も長いんですね。 ≪松下≫ そうですね、旅館業はね。それから、休みがない。今、労働基準監督署が厳しいですから、社員はできるだけ休ませなきゃならないんです。 今は、東京の会社と同じように、拘束9時間、実働8時間を超えれば残業手当を出さなければならないとかね。それから、遅い宴会があって、午後10時以降になったら深夜残業手当を付けなければならないとか、休日出勤には割増料金を払いなさいとかね。 社長さんがウエートを置くのは、営業や顧客獲得、それから人事管理どちらですか。 ≪松下≫ 両方ですね。 旅館が提供するサービス ![]() 旅館の中でイベントっぽいことをすることはありますか。そういうことはあまりないですか。 ≪渡辺≫ 夏の時期は、海石榴の敷地内に散策路がありまして、川沿いを散歩できるコースがあります。そこに、ご家族がそばで見守る形でお子様でも遊べる川遊びを何件か提供したりしています。 元旦は、振る舞い酒とかおしるこを提供します。山翠楼は映画鑑賞だったり、いろいろとイベントをやっています。 ラグジュアリータイプのホテルや旅館がたくさんできていますけど、そうしたカップル向けのものではなくて、こちらはあくまでも、記念日とか、皆様が安心して、人に紹介しても安心だよねというような宿として、利用されております。 例えば、娘さんが泊まられて、今度はお母さんを連れてきたとか、おじいちゃん、おばあちゃんに案内してもいいと。そうした理由が多いですね。 最後に・・・ ≪松下≫ やっぱり費用対効果ですよね。払ったお金に価値観を見出していただくと、上澄みの少しのお客様が、5万円でも来てくださるんです。だから、たとえ1万円でも、1万円払った料金に見合わないと思ったら、お客様は文句を言います。 今は、お客様の嗜好が千差万別ですからね。昔、我々が若いころは、バスを10台とか連ねて熱海とかに来たものですけど、ああいう旅行は今は1件もないですよ。みんな、そういうことだったら会社でお金を配って、好きな趣味があるところへ行きなさいということですから。だから、はじめから山翠楼へ来る、海石榴へ来るという目的を持ってきますから、楽といえば楽です。 山翠楼、海石榴行ってきて、行ってよかったと言っていただける旅館になる、と言っていただかないと思っています。 業務で多忙な中、快くインタヴューに対応していただいた松下社長様、営業企画部の渡辺様に感謝します。 ▲
by JAREC
| 2011-04-26 14:47
| インタビュー
2011年 04月 26日
湯河原にある高級旅館「山翠楼」と「海石榴(つばき)」の松下社長にインタビューをした。松下社長はホテルマンとして長年勤められ、まだ「山翠楼」と「海石榴(つばき)」が個人オーナー時代に旅館経営にもホテル的な感覚を取り入れたいというオーナーの意向を受け、副社長兼総支配人として勤められ、今回、ファンドがこの旅館を経営するにあたり、「代表取締役」として就任された方で、松下社長が考える「旅館経営」についてお話を伺った。
![]() ![]() 個人経営からファンド経営へ 過去の負債から見事に再生したと伺っておりますので、従前の状況から、一つには、どういうことでこういう再生に至ったのか。 どういった形で再生に取り組んで実行されたのか。 その後の今の運営について、例えば金銭的な部分で、資産の運営・管理をどう評価し、その時にどのような投資をされたのか。 ≪松下≫ 確かにこの旅館は、前に創業者オーナーがいました。 オーナーは事業を多角化しておりまして、オーナーが別の事業に傾注するために、ここをファンドに資産売却したわけです。 私は、2年ほどオーナーのもとを離れていましたが、オーナーが全部引きましたので、 ファンドには旅館に対する経営ノウハウがないものということで、ファンドから「経営をしてくれ」 と頼まれて、現在ここを経営しているという形です。ですから、もちろんオーナー社長ではなくて、 ファンドの雇われ社長で、オーナーはファンドであるという形です。 ファンドのもとで今は経営しておりますので、資産をどうこうとかいうことについては、私はタッチしていません。 出された範囲で、これだけのGOPを稼いでくださいと、言われているのです。 ファンドは、ここの資産価値を高めたらしかるべき投資家とか、オーナーへ売ることになる。 その過渡期の経営を私が任されているという形です。 売却が起こったのはいつごろですか ≪松下≫ 売却が起こって完全にオーナーが手を引いたのが、平成20年1月からです。 ただ、その1年ほど前から、売却するということで、ファンドが乗り込んできていろいろやっていたわけです。 このオーナー、社長さんは個人ですけど、前は会社組織だったんですか。 ≪松下≫ 会社組織でした。やはり株式会社山翠楼という会社で、ここの山翠楼と、その隣に、業界ではかなり有名旅館ですが、海石榴(つばき)という、規模はここの半分くらいしかない小さな旅館ですが、ステータスは比較的高いもので、その旅館と2つを経営されていました。 今、部屋数はどれくらいですか。 ≪松下≫ 旅館の場合、ホテルとは違って部屋数が比較の対象になるかどうかはわかりませんが、山翠楼が57、隣の海石榴は29で半分くらいです。 この山翠楼は、だいぶ前ですけど、70周年をやりましたけど、もう80年くらいに近くなりますけど、隣の海石榴という旅館は30年ほど前につくったと思います。ここを開業したのが昭和8年ですから。もちろん、そのころの建物は影も形もありません。 30年ぐらいだと、バブルが始まるころですね。 ≪松下≫ そのときに、湯河原の平均宿泊料が7,000~8,000円のころに、いきなり1泊3万円の旅館をつくったと有名になりました。今でも、海石榴のほうは1人の平均単価が5万円ですから、高い方はもっと払うわけです。 そういう旅館ですけど、当時、商売は非常に苦しかったという話ですが、やはりバブルの時流に乗って、一時は経営に先見の明があったと言われた経営者ですけどね。 今でも、単価的には5万円くらいですよね。 ≪松下≫ そうですね。今、バブルがはじけてだいぶ安くなったといっても、4万8,000円から5万円くらいです。 再生するための旅館経営 老舗旅館が時代的になかなか難しいということで、リニューアルして、全く違う形態にしてということも今は結構たくさんあるので、そういうイメージを持っていましたが、実際には変えていないということですね。人的な変化(合理化等)はあったのでしょうか。 ![]() ≪松下≫ そうですね。今までのオーナーは、本当の旅館のオーナーで、海石榴(つばき)の借景となる「箱根大観山」という、かなり箱根まで行かないと到達しないような山がありますが、そこの一番てっぺんまで、実は、株式会社山翠楼の持ち物です。それは結局、その当時、そのオーナーが購入し、山を見ても、他人の家を一軒も建たせない、全部自分のところの持ち物とした。 それから、今はありがたいと思っていますが、海石榴(つばき)のお客様に出す食器、1個が何万円という食器を現実に今お客様に出していて、壊れても補充もできませんが、そういうところにいろいろ投資をされた。それが、今はありがたい面もありますけど、投資効率からすれば少し悪かったのではないかということがありまして、私がその命題を負わされているわけですけど、ファンドが入ってから、そういうものをどんどん絞っていっています。 私はずうっと、ホテルマン一筋で、何十年とサービス一筋で、ここへ来てもサービス一筋です。要するに、旅館というのは、良いサービスと、良い料理、清潔な施設、これを続ければお客さんに支持される。という考えを私は持っています。 例えば、きょうもそうですが、皆さん、お部屋で夕食を召し上がられますけれども、合理化のために係を少なくしてブッフェパーティで出すとか、そういう旅館もたくさんありますよね。でも、そういうところで売上を上げるのではなくて、あくまでも、良いサービスで、良い料理で、清潔な施設という中で、それを好んでくださるお客様に来ていただくという方針が私の基本なので、ファンドから改めて私に会社の経営をしてくれないかと言われたときも、自分の経営主体はそれだけから、それじゃなくて、ふだん、3時か4時ごろチェックインされたら、玄関に係がいて、「いらっしゃいませ」と頭を下げて、何人かがあそこにいて、ご挨拶をする。下足番がいて、下足を取る。そこからお部屋の雰囲気を味わっていただくというやり方ですね。それを好むお客様に来ていただくという、非常にオーソドックスなやり方です。それをしないのであれば、ファンドから頼まれたときも、経営はできないと。そのスタイルを貫いて、ここ固有のお客様を増やすことはできるけれども、合理化で部屋係を減らすとか、フロント係がいなくなるとか、下足のまま部屋に上がれるようにするとかいうふうに方向転換をするならば、私は経営者としてそういう能力はないからと。それを承知の上でと。いうことで引き受けました。 この方針は、前のオーナーのやり方と変わっていないということですか。 ≪松下≫ ほとんど変わってないです。同じとは言いませんが。前はあまりにもむだがありすぎましたので、そういう面ではかなり合理化している部分もある。それから、社員の中に入っていってコミュニケーションをとりながらやる。前は、オーナーがいて、オーナーの下には部長も課長もない、みんな一兵卒、自分が指示して命令を下せばいいというスタイルでした。 従業員の統率をとるのはどなただったのですか。 ≪松下≫ 最初に私がきたときには運営だけは私にとらせていました。 社長さんが、大きな方針としては同じスタイルを踏襲するということで、ここで収益は改善していらっしゃると思いますが、どういうところを改善なさったのでしょうか。 ≪松下≫ これはこの間、会合で使った資料ですが、この赤いオレンジのラインは、上に書いてありますが、湯河原町に宿泊しているお客様のトレンドです。とにかく、平成17年2月から今年2月までの記録ですが、ずうっと下がっています。山翠楼はブルーのラインですが、平成19年に内部を一部改装しまして、これが終わったときに私が来たんですけど、そこから上がっていっています。ただ、一番ピークのところでリーマンショックがありまして、これはやはりすごくて、実は、今は下がっています。下がっていますけど、湯河原町の中におけるシェアは、この下に書いてありますが、平成17年では、湯河原町の総来客数の7.6%でしたが、今年は9.4%です。ですから、落ちてはいますけど、シェアとしては、湯河原に70軒くらいの旅館がありますが、約1割はここの旅館か隣の海石榴に泊まってくださっているということです。 なぜこうなったかというのは、もう一つ理由がありまして、内部のお客をじわじわと増やしてはいくけれど、それだけをしていてはだめだと。オーナーとして、ファンドが持った以上やってほしいことは、まず投資だと。こちらの要望するものをつくってほしいと、要望しました。それで、この旅館としてはまあまあの額を投資してもらって、きょう、男性のお客様は夜8時までしか入れないのですが、屋上露天風呂といって、非常にながめがよくて評判のいい露天風呂をこしらえたり、お部屋を10室ほど、それまではなかったんですけど、露天風呂付きの客室をつくったり、スパをつくって、これもまた非常に評判がよくて売上にすごく寄与していますが、そういう投資をしてもらいました。 ![]() 何を入れるかというのは誰が決めたんですか。 ≪松下≫ 今は私の下にいるスタッフたちが、こういうものがあったらいいという意見を言って、それをファンドが取り入れてくれたということです。 だから、我々の仕事は売上を上げることですけど、ファンドがやるべき仕事というのは、旅館によっては、抜本的な、急にiPodのような新技術が発明されるわけでもないし、医薬品の飛躍的な薬が発見されるわけでもないし、旅館に何が必要かというと、投資以外にはないんですよ。 ですから、施設への投資はファンドの役目。旅館、サービス業というのは、いくら施設をきれいにしても、サービスと料理と施設の清潔さが付随していなければ、お客様は絶対にリピートしてくれません。今、私が最も気にしているのは、お客様の声がどうなっているかです。毎日毎日アンケートを読んだり、あるいは、ネットに書き込みがありますので、それが厳しい目で見られますから、そういうお客様の評価を受けながら、指摘されたところは、直せるものは直していく、改善できるものは改善していく。そういうことがないと、いくら施設をきれいにしてもダメですよね。 従業員は、前のオーナーのもとで働いていた方がいて、その後、ファンドが入って社長さんが来られたということですが、従業員は、見る目や働く気持ちで随分といろいろ変わってくると思いますがその点は如何ですか。 ≪松下≫ 全くおっしゃるとおりです。 私、ホテルマン時代に顧客サービスの部長を務めていました。要するに、CSですね。顧客満足度をどうやって上げていくかと。そういう言い方はおかしいですけど、何十年とそれをしていますので、その辺のノウハウは体の中にしみついているものがありますから、ここへ来ても、私は、教育だけはスタッフに任せないんです。私自身がお部屋の係を、何人かに分けて、サービスとは何か、なぜ顧客満足度を上げなければならないのか、それを上げることによって自分たちもサービスに自信が持てる、お客様も喜ぶ、そうすると、結局、それによってお客が増えて収入が上がって皆さんの収入もアップすると。いうミーティングを半年に1回は必ずすることにしています。なぜ顧客満足をさせなければならないか、すれば自分にとっても得だということをわからせる教育を何回にも分けてやっています。少ないときは3人くらい。全員やりますので、空いている時間帯に、時間表をつくって、空いているところに自分の名前を入れろと。そういう教育をしています。 それはお話ですか。対談のような形で。 ≪松下≫ そうです。意見も聞きながらね。 それだけは自分がやっています。もちろん、おかみとか支配人とか、唐紙をあけるときは立ったままあけないで、きちんと座って、最初に左手で少しあけて、それから右手をそえて全部あけなさいとか、そういう技術論は彼らがやります。だけど、それは形の上だけのことであって、お部屋係にお客様が満足して、お客様がまたこの係にサービスしてほしいと思う気持ちにさせるのは、なぜ自分たちが顧客満足を上げることが必要なのかということを心の中でわからないとできないですね。そういう部分は、私は、どちらかといえば今までずっとやってきたことなので、そのノウハウがあると。 従業員は、実際には変わられたんですか。 ≪松下≫ いえ、上から下まで、ほとんど変わっていません。 リストラとか従業員を減らすとか、問題社員等の扱いとかの対応はなかったんですか。 ≪松下≫ 問題社員とか高齢社員というのは、それなりに納得した上で辞めていただいていますけど。景気が悪くてリストラとか、そういうことは全くしていません。 ▲
by JAREC
| 2011-04-26 14:46
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